「遠い山なみの光」(石川慶監督)トロント国際映画祭レビュー
カズオ・イシグロの原作を丹念に紐解いていくような体験

遠い山なみの光 Courtesy of TIFF
ストーリー: 故郷・長崎を離れ、イギリスで暮らす悦子(吉田羊)は、作家を目指す娘・ニキ(カミラ・アイコ)から、長崎時代のことを話してほしいと頼まれる。これまで過去について語ることを避けてきた悦子が語り始めたのは、かつての夫の二郎(松下洸平)と長崎で暮らしていた頃に出会った、奔放なシングルマザー・佐知子(二階堂ふみ)とその娘・万里子(鈴木碧桜)との思い出だった。 物語は1980年代のイギリスと1950年代の長崎-まったく違う場所と時代―を行き来しながら展開していく。
原作は真実を伝えず曖昧にしているが故に、残る余韻が印象的な作品でした。戦争が直接描かれているわけではありませんが、終結後も戦争が一市民に与え続ける影響を、静かに考えさせられました。
今回映画を観て、一原作ファンとして、石川監督の原作への誠実なアプローチがうれしかったです。原作のミステリアスな雰囲気と心の闇、悲しみを、そのまま美しい映像に染み込ませたような2時間でした。
現代っ子でイギリス生まれのハーフの娘、ニキの視点で母の過去を見るいう設定も、原作をより理解するためのものと納得。文字ではなく視覚で「あれっ?」と思わせることができるのも映像作品ならではの楽しさでした。悦子と佐知子の会話の場面や、小物など、細部にわたって「あれっ?」と思う場面が作り込まれており、何度も観て確認したくなる映画というのもうなずけます。
そして、小説を読み終わった際に感じたぞくっとするような謎への解釈。映画を観た後にも、しっかりと感じさせてくれました。原作ファンは今までおぼろげに思っていたところに答えをもらった感じではないでしょうか。
映像は全般的に美しく、イギリスと長崎で色調が異なるところは、悦子の生きる全く違う二つの世界を表現しているようで効果的でした。そして、広瀬すずさんと二階堂ふみさんの演技も、たたずまいから微笑み方まで悦子と佐知子で感動もの!二郎さん、緒方さんも少ない場面ながら深い物語を背負っているのが感じられ、原作の素晴らしさはもちろんですが、脚本と役者さんの力もすごいなぁと感じました。
戦後80周年を迎え当時のことを知る人が少なくなっていく中、当時を生き抜いた普通の人々に思いを馳せることができるという意味でも、多くの人に観てもらいたい作品です。

「遠い山なみの光(英語題:A Pale View of Hills)」をトロント国際映画祭で観た際には、幸運にも監督と広瀬すずさん、松下洸平さんが登場されました!2回目の上映回だったので来場を知らずに観に来ていた人もいたようで、皆さん嬉しいサプライズに喜んでいました。

観たよ!は映画好きライターたちによる連載コラムです。話題のハリウッド大作からインディー作品、配信限定の映画まで。「これは良かった!」という作品から「イマイチかも…」という作品まで。個人的な視点も交えながら、どんどんレビューしていきます



