その物語、誰のもの? 「Yellowface」ブックレビュー

『Yellowface』R.F.Kuang (2023):スリリングなストーリーに出版業界に潜む偏見や商業主義を重ね合わせたサスペンスタッチの風刺小説。エンタメ性と問題定義を両立させ、出版されてすぐベストセラーになりました。この黄色い表紙、今でも本屋さんで目立っていますよね。
同じ著者による小説「Babel」や「Poppy War」は少し重めの時代ファンタジーですが、「Yellowface」は現代のアメリカが舞台の小説。登場人物も設定も理解しやすくエンタメ要素もあるので、洋書に馴染みが薄い人にも読み易い作品だと思います!
あらすじ
物語は、アジア系アメリカ人の人気作家Athena Liuが突然亡くなるところから始まります。彼女の死を目の当たりにした友人であり、白人の作家June Haywardは、Athenaが残した未発表の原稿を自分の作品として世に出そうと決意します。本は大ヒットとなりジューンは一躍脚光を浴びますが、それと同時に彼女の人生は少しずつ狂い始めていきます。
主人公のJuneは才能も野心もあるけれど、他責志向が強く自己中心的。Athenaの死をきっかけに、注目を浴びたいという欲望に突き動かされて理性を失ってしまいます。Juneの心の中では、つねに自己正当化と不安がせめぎ合っていて、読んでいると苛立ちを覚える時も。けれど彼女の行動や心理があまりに人間的なので悪人としては切り捨てられず、嫌な主人公なのに目が離せないというジレンマに陥ってしまう、そんな読書体験でした。
読みどころは盗作をめぐるサスペンスだけではありません。文化の盗用や白人特権、SNSでの炎上、キャンセルカルチャー、そして“誰が物語を語るべきか”という問いなど、現代の私たちが直面するテーマが作品の随所に散りばめられています。
物語が終盤に向かうにつれ、Juneのキャリアと人生は少しずつ崩れ始めます。読後には「正義が勝った」とスッキリするわけではありません。誰もが何かしらの矛盾や葛藤を抱えて生きている——そんな現実を突きつけられるようなラストが待っています。
テーマの扱いがやや表層的に感じられ物足りないところはあるし、登場人物の行動やプロットが不自然というか、えっ、そういう展開?と感じる場面も。それでも、読む手が止まらないほどテンポよく物語が進み、最後まで一気読みしてしまう作品であることは間違いありません。
“物語を語る”という行為には、どんな責任が伴うのか?
その問いを投げかけてくる一冊です。

読んだよ!は読書好きライターたちによる連載コラムです。英語で出版された本を中心に、名作から話題の本まで個人的な視点も交えながら、どんどんレビューしていきます。
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