結婚は「愛」かそれとも「計算」か

Photo:「Materialists」A24
「Materialists (マテリアリスト)」セリーヌ・ソン監督
ニューヨークを舞台に、現代の結婚観と本当の愛の葛藤を描くラブストーリー。現代社会における物質主義と人間関係の複雑さを視覚的に美しい映像と合わせて探ります。
あらすじ
マンハッタンのエリート向けマッチングサービスで活躍中のルーシー(ダコタ・ジョンソン)。顧客の希望する「年収・身長・職業」といったスペックを基にマッチの確立を計算、9組目の成婚を手がけたばかり。彼女は恋愛を「ただの数式」と割り切っています。そんな彼女の前に“完璧な独身男性”(お金持ち・高身長・ハンサム)のハリー(ペドロ・パスカル)が現れルーシーに興味を抱き、彼女をデートへ誘います。ところが、かつての恋人で俳優を目指しながらアルバイトを掛け持ちするジョン(クリス・エヴァンス)とも再開、二人の男性の間で心が揺れはじめます。

Photo:「Materialists」A24
物語は、ニューヨークで成功を追求する女性ルーシーが、物質的な豊かさと真の幸福の間で葛藤する様子を描いています。「結婚は条件か、それとも感情か?」という問いに、結婚相手を見つけるのは相手に求める条件リストを埋めること、と言い切るルーシー。でも自分の前に現れた完璧な男性(ペドロ・パスカル!)とかつての恋人との間ではしっかり揺れ動いてしまいます。当然、そんな割り切れるものではないですよね。
ダコタ・ジョンソンのちょっと無機質な演技は計算的でありながら心に迷いを抱える現代女性にぴったりだし、ペドロ・パスカルとクリス・エヴァンスの対照的な存在感もはまり役。でも、なんとも残念なところは、キャラクターたちに深みとリアリティが足りなかった点と(いや、年収8万ドルでマンハッタンで一人暮らし?とか)、3人にケミストリーが感じられなかった点。
セリーヌ・ソン監督は前作の「Past Lives」で、巧みな演出と繊細なキャラクター描写が素晴らしく高い評価を受けました。「Materialist」でもラブストーリーを通じて私たちに価値観を問い直す、という点では前作同様に、とても上手くできていたなと思います。
映画のビジュアルも、都会の喧騒と静かな瞬間を対比させて物質主義の影響を強調しているし、サウンドデザインも映画の感情的な深みを増す役割を果たしています。
でも、話の結末が見えているわりにはキャラクターに感情移入できず、「Past Lives 」ほどに感動はなかったというのが私の感想です。というかデビュー作が衝撃的に良かったため期待値のハードルが上がってしまったのかも知れない。なので、前作と比較せずに単にラブストーリーを楽しみたい人には楽しめるかと思います。また、観た後誰かと恋愛観を語り合うのも盛り上がるかも。「愛はないけどお金持ちの男性か、愛はあるけど貧乏な彼か」というネタとか、「マッチメイキングサービスでどこまで条件出す?」など…。

Photo:「Materialists」A24
「Materialists」は、合理的な恋愛と感情的な愛情の間で揺れる現代人を、スタイリッシュかつ心に響くタッチで描いたロマンティックドラマ。純粋なロマンス映画を求める人にも、「恋愛とは何か?」を考えさせる作品を求める人にも楽しめると思います。

観たよ!は映画好きライターたちによる連載コラムです。話題のハリウッド大作からインディー作品、配信限定の映画まで。「これは良かった!」という作品から「イマイチかも…」という作品まで。個人的な視点も交えながら、どんどんレビューしていきます