シネマレビュー 「観たよ!」Universal Language (Matthew Rankin 監督)

Universal Language/ Courtesy of TIFF

2024年のカンヌ国際映画祭監督週間で監督賞を受賞し、トロント国際映画祭(TIFF)やバンクーバー国際映画祭(VIFF)など、数多くの映画祭で上映され高い評価を得た。また、2024年アカデミー賞国際長編映画賞ではカナダ代表に選ばれた作品。

マシュー・ランキン監督は前作の「The 20th Century」でカナダ首相の座をめぐる権力争いを皮肉とブラックユーモアたっぷりに描き注目を集めた。本作では、自らマシュー役としても出演している。

物語は、七面鳥にメガネを奪われた少年オミッドが、先生から「黒板の字が読めるようになるまで授業を受けさせない」と理不尽な扱いを受けるところから始まる。それに同情した姉妹ネギンとナズゴル。公園の厚い氷の中に眠る紙幣を取り出し、新しいメガネを買ってあげようと奮闘する。彼女たちは街の大人たちに助けを求めるが、登場するのは少し変わった住人ばかり。やがて、廃墟を観光名所として案内するツアーガイドや、仕事に嫌気が差した男などが交差し、物語を思わぬ方向へ導いてゆく。

Universal Language/ Courtesy of TIFF

カナダのウィニペグが舞台なのに全編ペルシア語と一部フランス語。登場人物の行動も町もなんとも不思議で、(寒い以外は)私の知っているウィニペグとかけ離れている。たくさんの??から始まったこの映画。その世界観、細部まで作り込まれた映像はウェス・アンダーソンを思わせ絵画のよう。

監督が「この映画の主要なテーマの一つは『人に優しくすること』」と話す通り、映画は、アイデンティティ、疎外感、そして人とのつながりへの渇望というテーマを優しく探求。愛情と哀愁を込めて滑稽さの中で描き出していきます。

とにかく不思議な世界感なので、ユーモアやテンポは合わない人もいるかも知れない。でも、この風変わりなリズムに乗れる人には、連帯感やアイデンティティを求める旅への賛歌として楽しめるのではないでしょうか。実際、昨年の映画祭各地で上映された時には「今年のカナダ映画で一番!」の声も多くあがっていました。

盗まれた眼鏡、氷に閉じ込められた紙幣、バスに乗った七面鳥。次々登場する一見ナンセンスに思えるこれらの出来事が、登場人物(そして観客)に不条理を共有する瞬間を生み出し、人々をつなぐ共通言語になる。それは、笑いと困惑が人々を結びつけるもうひとつの「ユニバーサル・ランゲージ」となるから。なるほど、私たち映画を観るものを結びつける共通言語(ユニバーサル・ランゲージ)は「言葉」ではなく映画を通して「感じるもの」だったのかな、と私なりに納得したナンセンスでありながらも温かく、言葉を超えたつながりを描いた、何とも忘れがたい作品です。日本でも2025年の夏に公開予定なので機会があれば是非この不思議な世界を楽しんでみてください!

昨年のVIFFで上映された時に配られたティッシュボックス(映画の中に出てくるアイテムです笑)Photo:Osanpo News Canada!

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