シネマレビュー観たよ!『Marty Supreme(マーティ―・シュプリーム世界をつかめ)』(ジョシュ・サフディ監督)ティモシー・シャラメ主演

『Marty Supreme(邦題マーティ―・シュプリーム世界をつかめ)』(ジョシュ・サフディ監督)異色な主人公を演じきったティモシー・シャラメ 

Timothée Chalamet Credit: Courtesy of A24

 あらすじ:舞台は1950年代のニューヨーク。靴屋で働きながら、卓球で世界一になることに人生を賭けるマーティ・マウザー(ティモシー・シャラメ)。目的のためなら嘘も裏切りも厭わない彼は、野心と自己中心的な行動で次々と周囲を巻き込んだトラブルを引き起こしていく。それでもひるむことなく突っ走るマーティ―。果たして彼は世界一の座を手にすることができるのだろうか。

 映画『Marty Supreme(マーティ・シュプリーム)』は、正直に言って最低で、まったく好きになれない男が主人公の映画です。そして、その「好きになれなさ」こそが、この作品を忘れがたい一本にしている―そんな、なんとも言えない魅力を持った作品でもあります・・・と、そう思っていたところ、日本の公式ポスターに「この男、最低で最高。」というコピーがあるのを発見。まさにその通りだと、思わず笑ってしまいました。

(L-R) Josh Safdie, Timothée Chalamet Credit: Atsushi Nishijima

 本作は、勝利を目指すアスリートの物語です。しかし、いわゆる「努力して勝利をつかむ感動ストーリー」ではありません。ティモシー・シャラメ演じるマーティは、野心的で自己中心的。目的のためなら、その場しのぎのテキトーな事も言うし、嘘も裏切りも平然と重ねる、どう考えても最低な男です。卓球に対しては真摯ではあるし、不倫相手のレイチェルには優しさを見せる一面もありますが、誠実さや他者への敬意はほとんどなく、その結果、次々とトラブルを引き起こしていきます。約2時間半という長い上映時間の間、卓球とは直接関係のない問題が延々と続きます。それでも不思議と、トラブルの渦中を突っ走るマーティから目が離せなくなってしまうのです。何がなんでもあきらめず、どんなに絶望的な状況でも小さなきっかけをつかみ目的にたどり着こうとする、その強い信念から放たれる彼のエネルギーゆえなのかもしれません。

 尊敬できない男を、ここまで魅力的かつリアルに演じ切るのは簡単なことではありません。観客に「こんな奴、最低」と思わせながら、同時に「それでも目を離せない」と感じさせるティモシーの演技は、まさに圧巻の一言です。

Koto Kawaguchi Credit: Courtesy of A24

 ジョシュ・サフディ監督らしい、迫力のあるカメラワークと、張り詰めた空気感は本作でも健在です。中でも、川口功人さん演じるエンドウとの卓球の試合シーンは、想像以上にスリリングで、まるで本格的なスポーツ映画を観ているかのような臨場感があります。本物の卓球選手である川口さんを相手に、ティモシーも迫真の演技を見せ、ラリーの一打ごとに、マーティの焦りや執念が伝わてきて、こちらまで息が詰まるほど。川口さんはその佇まいと演技から、てっきり俳優さんだと思っていたのですが、実はデフリンピック日本代表として銅メダルを獲得されているアスリートの方でした。大変失礼ながら、次にブレークするアジア系俳優かも、などとまで思って観ていました。

Pico Iyer, Timothée Chalamet Credit: Courtesy of A24

 『Marty Supreme』は、爽快な成功物語を期待すると裏切られるかもしれません。しかし、2時間半ものあいだ観客を引き付けて離さない演出、俳優陣の演技、そしてスクリーンからくるエネルギーは、観終わった後に高い満足度を残します。ラストのシーンは少しだけ、しんみりとするのですが、「いや、この男がこんな顔するのは絶対今だけ。どうせすぐ、家族を泣かせるだろうな」と思わせてくれるあたりも含めて、最後の最後まで完璧な映画でした。

観たよ!は映画好きライターたちによる連載コラムです。話題のハリウッド大作からインディー作品、配信限定の映画まで。「これは良かった!」という作品から「イマイチかも…」という作品まで。個人的な視点も交えながら、どんどんレビューしていきます。

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