シネマレビュー「Eleanor the Great」スカーレット・ヨハンソン監督
嘘から始まる、赦しと再生の物語

Eleanor the Great : Courtesy of TIFF
スカーレット・ヨハンソンの監督デビュー作品。前作の「Thelma(邦題テルマがゆく!93歳のやさしいリベンジ」で大活躍をしたジューン・スキッブが、またまた元気でユーモラス、そして少し寂しいおばあちゃんを演じています。でも楽しいだけではありません、とても重いテーマも含まれている作品でした。
あらすじ:高齢のエレノア(ジューン・スキッブ)は、70年来の親友ベッシー(リタ・ゾハー)と支え合いながら穏やかな日々を送っていた。互いの夫はすでに他界し、子どもたちも巣立った今、二人は買い物も散歩もいつも一緒だった。
しかし、最愛のベッシーを亡くしたエレノアは、娘の住むニューヨークへと移り住むことになる。新しい環境で何か始めようと、ユダヤ人コミュニティセンターで音楽クラスに参加しようとするが、誤ってホロコースト生存者のための支援グループに紛れ込んでしまう。そこで、なりゆきから親友ベッシーの体験を自分の過去として語ってしまうのだった。やがてその嘘は広まり、エレノアの周囲を巻き込む思わぬ事態へと発展していく。そんな中、彼女は、若い女性ニーナ(エリン・ケリーマン)と心を通わせるようになる。世代も背景も異なる二人の友情は、エレノアに「自分として生きる」勇気を取り戻させていくのだった。
スカーレット・ヨハンソンの監督デビュー作「Eleanor the Great」は、老いと喪失、そして記憶の重みを、穏やかなまなざしとユーモアを交えて描いた人間ドラマ。主人公エレノアを演じるジューン・スキッブは、長い人生を生きてきた者だけが漂わせる温かさと痛みを感じさせ、完璧ではないけれど憎めない―そんな愛すべき“おばあちゃん”像を作りあげていてます。本当に最高です!
本作の魅力は、重いテーマの中にも息づくユーモア。フロリダでの穏やかな日常や、ニューヨークでの不器用な再出発には、笑いと切なさが絶妙に混ざり合います。特にエレノアがふとしたきっかけで嘘をついてしまい、物語が思わぬ方向へ転がっていく場面では、「一体ここから、どうするの⁉」とハラハラしながらも、なぜか彼女を責める気持ちは起こりません。
親友の体験を自分のものとして語ってしまうというエレノアの過ちは、単なる嘘ではなく、亡き親友の記憶を生かそうとする無意識の祈りのようにも思えました。作中でベッシーが「私がいなくなれば、弟が生きていたことを知る人はいなくなってしまう」という意味の言葉を語る場面が、“引き継ぎ、伝えていくべき記憶”の大切さを強く思い起こさせます。もちろん、嘘やなりすましは絶対に許されることではありませんが。
物語は静かなテンポで進みながらも、ユーモアと温もりが随所にちりばめられ、決して重苦しくはなりません。特に、若い女性ニーナとの交流を通じてエレノアが再び生きる力を取り戻していく後半は、世代を超えた友情の尊さを感じさせ、心に温かい余韻を残します。
ヨハンソン監督はエレノアを一方的に“悪人”や“弱者”として描くことを避け、複雑で愛すべき一人の人間として見つめます。その視点が、この作品を単なる“おばあちゃんコメディ”ではなく、深い人間ドラマにしているのではないでしょうか。笑顔と静かな感動を求める人に、ぜひおすすめしたい映画です。 それにしても、ジューン・スキッブ、95歳!!拍手しかないです。
トロント国際映画祭のプレミア上映には、スカーレット・ヨハンソン監督と、ジューン・スキッブさん、エリン・ケリーマンさん、キウェテル・イジョフォーさんも登壇しました!



観たよ!は映画好きライターたちによる連載コラムです。話題のハリウッド大作からインディー作品、配信限定の映画まで。「これは良かった!」という作品から「イマイチかも…」という作品まで。個人的な視点も交えながら、どんどんレビューしていきます



