バンクーバー美術館でタミオ・ワカヤマ回顧展「Enemy Alien」開催
日系写真家の知られざる軌跡を巡る 10月3日~2026年2月26日まで

Vancouver Art Gallery「Enemy Alien:Tamio Wakayama」Photo:Osanpo News Canada!
バンクーバー美術館で2025年10月3日、日系カナダ人写真家の故タミオ・ワカヤマさんの初の大規模回顧展「Enemy Alien:Tamio Wakayama」が始まった。本展は、50年以上にわたる彼のキャリアから300点を超える作品を通じて、カナダおよびアメリカの社会正義運動や多様なコミュニティの姿を紹介する。主催はバンクーバー美術館、ゲストキュレーターはポール・ウォン氏。
強制収容所、オンタリオ州への移住、そしてアメリカ南部へ
ワカヤマさんは1941年、ブリティッシュ・コロンビア州ニューウェストミンスターに生まれた。第二次世界大戦中、「敵性外国人(Enemy Alien)」とみなされ、他の日系人と共に強制収容され、終戦後には日本への送還かロッキー山脈以東への移住を迫られ、家族と共にオンタリオ州へ移住した。こうした体験が、彼の社会正義や補償運動への強い関心と活動の原点となった。
1960年代にはアメリカ南部に渡り、学生非暴力調整委員会(SNCC)にボランティアとして参加。写真の現像などの手伝いをするうちに自身でもカメラを手にするようになり、公民権運動やミシシッピ州の人々の姿を多くの写真に収めた。SNCC時代にワカヤマさんが撮影した写真は、当時の記録として現在では貴重な資料となってる。カナダ帰国後も各地で人種的・民族的抑圧の記録を続け、1970年代にバンクーバーに拠点を移してからは、地元の日系カナダ人コミュニティや文化活動を記録し、日経カナダ人百周年記念プロジェクトなどにも関わった。

Tamio Wakayama, Boys playing in Vine City, Atlanta, Georgia (“Super Snick”), July 7, 1964, 1964, archival inkjet print, Estate of Tamio Wakayama
ワカヤマさんと生前親交のあったキュレーターのポール・ウォン氏は、「1970年代、パウエル祭でカメラを手にコミュニティの人々を熱心に記録するタミオをよく見かけた」と思い出を語り、「今回初め彼の全貌を紹介できることを光栄に思う」と開催を喜ぶ。「これは、タミオの旅路であり、憎しみの場所から受容と内なる平和の場所へと至る旅の記録です」とも。
展示はワカヤマさんの辿った道を追い、三つのセクションで構成
展示は三つのセクションで構成されている。第一はアメリカ南部でのSNCCの活動を中心に、マーティン・ルーサーキング牧師ら著名なリーダー達の肖像や、黒人コミュニティの子どもや高齢者の日常を写した作品群。第二はカナダの先住民族、ドゥホボール派(ロシア系宗教共同体)の人々、さらにキューバや日本の日常風景の写真。第三は故郷であるバンクーバーに戻った後の、パウエル街での日系コミュニティの活動や、日系カナダ人の歴史・補償運動の記録など。
各セクションを通じて、社会の不正義を目の当たりにし、正義を求めて闘う人々との出会いを重ねながら、写真家としての才能を開花させ、故郷で自らの居場所とコミュニティを見いだしていった軌跡をたどる。
同展ではアーティストのシンディー・モチズキさんによる、ワカヤマさんの人生とその影響をアニメーションで描くドキュメンタリー映画『Between Pictures: The Lens of Tamio Wakayama』(2024年/70分)も上映される。

Vancouver Art Gallery「Enemy Alien:Tamio Wakayama」Photo:Osanpo News Canada!

キュレーターのポール・ウォン氏 Photo:Osanpo News Canada!
ワカヤマさんの生前のパートナーである、マユミ・タカサキさんは「彼がパウエル祭など日系コミュニティの写真を撮っていたことは知られているが、アメリカ時代の活動はあまり知られていない。聞かれれば話すが、自分から語る人ではなかったから」とその人柄を振り返る。
「テレビ報道を見て公民権運動を手伝いたいと、21歳でいきなり知り合いもいないアメリカ南部へ向かったと話していた。活動を手伝ううちに写真を撮り始め、とにかく記録に残すために撮り続けたそうだ」と話す。ワカヤマさんが撮影したアメリカ南部の人々は皆生き生きとした表情を見せており心を開いている様子が見てとれる。「アジア人は彼ともう一人しかいない所だったのだが、仕事ぶりと人柄で受け入れられていたようだ」とも。「強制収容所の経験と、オンタリオ州の貧しい黒人の多い町で育った経験が、彼をアメリカへと向かわせ、その結果写真と出会い写真家としての人生を始めるきっかけになった」とその旅路を振り返り「一歩足を踏み出したたことで、人生を変える写真という大きなものに出会ったのですね」と感慨深気に話した。
今回の展示では、初めて現像される写真を含む数万点の中から選ばれた300点を超える作品が並ぶ。ウォンさんは「これまで誰の目にも触れてこなかった写真が多くある。当時の記録としても貴重だが、彼の写真家としての歩みを振り返るうえでも意義深い写真ばかりだ」と来場を呼びかける。

同展ではシンディー・モチズキさんのアニメーションによるワカヤマさんのドキュメンタリーも上映
バンクーバー美術館広報は、「本展開始の時期は、カナダ政府が日系カナダ人に対する戦時補償を正式に謝罪した『日系カナダ人補償協定(1988年9月22日)』の記念日直後にあたる。展示タイトルの『Enemy Alien(敵性外国人)』には、歴史と現在をつなぐ警鐘の意味も込められている」と説明する。
「Enemy Alien:Tamio Wakayama」展は、2026年2月22日まで。
詳細はバンクーバー美術館サイトを参照のこと。



