観たよ!『The Drama』レビュー:愛する人の全てを受け入れられますか?

『The Drama(ザ・ドラマ)』(クリストファー・ボルグリ監督)レビュー

ザ・ドラマ ゼンデイヤ ロバート・パティソン

『The Drama』(L-R) Robert Pattinson, Zendaya Credit: Courtesy of A24

 クリストファー・ボルグリ監督による『The Drama』は、一見すると“結婚直前のカップルを描くロマンティック・コメディ”のように始まります。しかし実際には、愛、正義、罪悪感、そして許容をめぐる心理劇へと変貌していくブラック・コメディです。主演はゼンデイヤとロバート・パティソン。

あらすじ:『The Drama』 は、結婚式を目前に控えたカップル、エマとチャーリー。完璧に見えた二人の関係は、ある夜、レイチェルが過去について一つの秘密を打ち明けたことで少しずつ崩れ始めます。「相手を本当に理解している」と信じていたはずの二人なのに、互いの価値観や正義感、愛情の形が想像以上に食い違っていたことに次第に気づき、葛藤が始まります。

 『The Drama 』は、観る前に期待していたような恋愛映画ではありませんでした。いや、前半30分くらい?は、そうだったのです。結婚式が間近な素敵なカップル、素敵な街、素敵なファッション、素敵なインテリア、なんか見ているだけで幸せになるような世界感。なのに、物語は次第に二人の関係崩壊を描きはじめ、観客に三つの問いを突きつけてきます。私たちは本当に相手を理解しているのか?愛はどこまで相手を受け入れられるのか?そして、「正義」とは誰の視点で決まるのか?

『The Drama』Zendaya Credit: Courtesy of A24

 本作がなんといっても不穏なのは、登場人物の誰一人として「完全な悪人」でも「完全な善人」でもない点です。むしろ全員が自分なりの正義を抱えているからこそ、観ているこちらは何とも言えない気持ちになってしまう。それが現実というものだ、と突きつけられているかのようです。脚本は彼らのすれ違ってしまったコミュニケーションや沈黙を巧みに使い、観客をあえて不安定な感情へと追い込み、恋愛映画に期待される安心感を徹底的に拒否していきます。そして観終わったあとに残るのは、何とも言えない居心地の悪さなのです。

 エマという人物を単なる傷を抱えた女性ではなく、危なさも隠し持っている、と観客に思わせるゼンデイヤの演技はとても良かったです。一方のロバート・パティソンも、理知的で穏やかな男が徐々に精神的均衡を失っていく過程を見事に演じていました。二人とも大好きな俳優さんたちなので、ここはとても満足。

 また、A24作品らしくジャンルの混ぜ方が巧みで、ブラックコメディ、サスペンス、ロマンス、心理ホラーが絶妙に混在し、笑っていいのか戸惑う瞬間や、ここでこんな発言いいの?と言いたくなるような場面が何度も訪れます。観客によっては題材が「悪趣味」と感じるだろうし、逆にその挑発性を高く評価する人もいる、と言うのもうなずけました。何より観終わった後に、人と話さずにはいられない作品に仕上がっているのはさすがです。

『The Drama』 (L-R) Robert Pattinson, Zendaya Credit: Courtesy of A24

 映像面では、柔らかな自然光と静かなカメラワークが特徴的で、ボストンの街並みが幸せそうな結婚生活の幻想を一層盛り上げていました。そこは期待していた通りのロマンティック・コメディの世界で、あの前半のまま幸せな恋愛映画を一本作って欲しいと思ったくらいです。だからこそ、その穏やかな空気が後半で逆に不穏さへ転化していく演出が見事でした。

 『The Drama』は万人向けの映画ではないかも知れません。愛を描きながら、同時に愛そのものを疑ってみせる。そして正しい人なんていないのでは、とまで思わせてしまう。後味の悪い?その危うさこそが、観た後にあれこれ考えてしまうこの映画の最大の魅力なのだと思います。

観たよ!は映画好きライターたちによる連載コラムです。話題のハリウッド大作からインディー作品、配信限定の映画まで。「これは良かった!」という作品から「イマイチかも…」という作品まで。個人的な視点も交えながら、どんどんレビューしていきます。

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