『Wild Horse Nine』映画レビュー|ブラックユーモアの奥にある友情と哀しみ

John Malkovich and Sam Rockwell in WILD HORSE NINE. Photo by Searchlight Pictures/Diego Araya Corvalán, Courtesy of Searchlight Pictures. © 2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

『Wild Horse Nine』(マーティン・マクドナー監督)とにかく、マルコヴィッチの“手に負えないじいさん”っぷりが最高!

 マーティン・マクドナー監督の最新作。とにかく、テンポの良い絶妙な会話劇が楽しめる作品だ。ユーモラスでありながらどこか噛み合わない、シニカルで不条理なセリフの応酬。ベテランCIAの「倫理観」や「パラノイア(被害妄想)」を突いたクスッと笑えるセリフが散りばめられている。監督の過去作品でも描かれてきた、男同士の奇妙な関係と毒舌、そしてブラックユーモア。本作『Wild Horse Nine』にも、そのマクドナー節はしっかり健在だ。

あらすじ:
舞台は1973年のチリ軍事クーデター直前。CIA局長の命令によって、サンティアゴから巨石モアイ像がそびえ立つイースター島へと派遣された2人のベテランCIAエージェント(ジョン・マルコヴィッチ、サム・ロックウェル)が主人公です。
不穏な陰謀や自らの暗い過去と格闘する中、現地で反体制派の学生たちと知り合い、彼らの任務を予想もしないカオスな方向へと狂わせていきます。

『ヒットマンズ・レクイエム(原題In Bruges)』では、殺し屋二人がブルージュで時間を持て余す。『イニシェリン島の精霊(原題The Banshees of Inisherin)』では、昨日まで親友だった二人が突然、絶交をめぐって揉め始める。『Wild Horse Nine』は年老いたCIAエージェントが、イースター島のモアイ像の前にいる。どれもシンプルだけど何故か興味を引かれる設定だ。

Wild Horse Nine トロント国際映画祭
Sam Rockwell and John Malkovich in WILD HORSE NINE. Photo by Searchlight Pictures/Diego Araya Corvalán, Courtesy of Searchlight Pictures. © 2026 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

 

やっぱり楽しい、男同士のかけ合い

 そして楽しいのが、ジョン・マルコヴィッチとサム・ロックウェルのかけ合い。二人が言い合っているだけで、もう映画が成立してしまう。そしてジョン・マルコヴィッチ演じるクリスが、とにかく手に負えないじいさんなのである。頑固で、口が悪くて、面倒くさい。なのに、そこはさすがベテランCIAエージェント。頼りない老人かと思いきや実にシャープなところを持っている。そしてなぜか憎めない。

このキャラクターを楽しむだけでも、この映画を観る価値はある。

背景には政治的なテーマも

 ただし、政治を正面から描く映画ではない。大きな政治や歴史の動きは背景にあり、その中で生きる二人の人間にカメラが向けられている。だから、政治や陰謀もの映画というより、政治や歴史の影を背景にしたブラックコメディと考えたほうがしっくりくる。

 一方で、過去のマクドナー作品を知っている人ほど、気になるところもある。男二人。毒舌。ブラックユーモア。奇妙な友情。暴力。死。後悔。マクドナー映画の「おなじみの材料」が、今回もたっぷり入っている。

 それでも、(何度も言うが)マルコヴィッチの手に負えないじいさんっぷりが最高なのだ。笑って、ちょっと嫌な気分になって、驚いて、そして最後には少し寂しくなる。そんなブラックコメディだ。

観たよ!は映画好きライターたちによる連載コラムです。話題のハリウッド大作からインディー作品、配信限定の映画まで。「これは良かった!」という作品から「イマイチかも…」という作品まで。個人的な視点も交えながら、どんどんレビューしていきます。

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