バンクーバーにシンディー・望月さんのパブリックアートー子どもたちと協働で

バンクーバーに望月シンディーさん、初の恒久的パブリックアート

Under(currency) by Cindy Mochizuki /Ambi on Cambie building

 バンクーバーを拠点に活動する日系カナダ人アーティスト、望月シンディー(Cindy Mochizuki )さんによる初の恒久展示パブリックアート作品「Under(currency)」が、マーポール地区の新たなランドマークとして注目を集めている。本作は、CambieストリートとWest 41st Ave.の交差点に位置する複合開発レジデンス「Ambi on Cambie」の屋外ファサードに設置され、都市の喧騒の背後に潜む“見えない物語”を可視化する試みだ。 

 PCI Developmentsとバンクーバー市のパブリックアートプログラムの委託により制作された「Under(currency)」は、地上レベルに設置された石のストーリーディスク、建物外壁に並ぶ9体のブロンズ彫刻、そしてインタラクティブなウェブサイトによって構成される。これらは連動しながら、マーポール地区の日常の表層の下に流れる記憶や歴史、人々の営みを浮かび上がらせる。 

 本作の核となるのは、地元の子どもたちと創りだした神話的・魔法的な守護神9体。望月さんはOsler小学校の3・4年生約20名と3週間のワークショップを行い、守護神のコンセプトを形にしていった。  マーポール地区の動植物や四季の変化、かつて通勤客を運んでいたBC Electric Railwayの歴史から、子どもたちが着想を得て神々の物語を構築。粘土やインク、物語を通して作り上げたアイデアは、最終的に望月さんによるブロンズ彫刻やストーンモザイクとなり、作品として結実した。 

 望月さんは「子どもたちとの作業は予想外の発想が生まれ、とても楽しい時間でした」と振り返り、「将来それぞれの道に進んでも、地元に戻ったとき自分たちの神様がいることが良い思い出になれば」と語る。

 ストーリーディスクにはQRコードが埋め込まれており、望月さんのアニメーションで描かれる「Under(currency)」の世界につながる。かつてこの場所に流れていた川を舞台に、子どもたちが創り出した神々が登場して語る物語は、オークリッジやマーポールの歴史、そしてBC Electricの路面電車で通勤していた日系カナダ人コミュニティなどに着想を得ており、鑑賞者を作品の内側から過去の世界へと誘う。 

 望月さんは「かつてこの地域を走っていたBC Electric Railwayは、スティーブストンとバンクーバーを繋ぎ、たくさんの日系人が利用していました。このアートが設置されたCambie St.と41st Ave.は、スカイトレインとバスが乗り入れるトランジットハブです。今も様々なコミュニティーから来る人々が日々行き交うこの場所で、過去の歴史にも少し触れてみてもらえれば」と作品に込めた思いを話す。「サイトには、おみくじの様なメッセージを受け取れる楽しみも含めたので、時折チェックして楽しい気分で過ごしてもらえれば」とも期待する。 

Under(currency) by Cindy Mochizuki

 この作品の延長として、PCI Developmentsは完成した賃貸住宅に入居する住民のために、陶器製の「ラッキー守護神」チャームを制作。新しい入居者にはランダムで1つ配られ、建物のコミュニティの中でもこの神話が生き続ける。モチズキさんは「日本では、街のなかにたくさんの神社があり住民の生活を見守っています。日常の生活の中で、神社を訪れて手を合わせている姿や、お守りを持ち物に着けている人の姿を見てとても心ひかれました」とチャーム制作の意図を話す。 

Under(currency) by Cindy Mochizuki /Lucky deity charms from PCI

 「Under(currency)」は、単なる視覚的なインスタレーションにとどまらない。地域の過去と現在をつなぎ、コミュニティの声を取り込みながら、新たな神話を紡ぎ出す“開かれた物語装置”として機能している。バンクーバー中心部と郊外を繋ぐオークリッジ駅という急速に発展するコミュニティの中心に位置するこの作品は、都市における公共空間のあり方、そしてアートが果たし得る役割を改めて問いかけている。 

 忙しい日常の中でふと足を止め、足元の石や壁面の彫刻に目を向けると、この街の下に広がる見えない物語に出会うことができる。「Under(currency)」は、都市と人、そして記憶を静かに結び直していくパブリックアートだ。

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