「Ongoing / Pacific Crossings」リッチモンド・アート・ギャラリーで開催


2026年7月25日―10月4日 Richmond Art Gallery

Ongoing/ Pacific Crossing

 

 バンクーバー郊外、リッチモンド市のRichmond Art Gallery(RAG)で、7月25日から10月4日まで、「Ongoing / Pacific Crossings」が開催されている。

 東京、吉祥寺にあるArt Center Ongoingに関わる日本人アーティストを中心に、カナダのアーティストを加えた同展。ドローイング、絵画、彫刻、インスタレーション、パフォーマンス、映像など、複数のジャンルを横断する作品を紹介する。日本からは、青木真莉子、地主麻衣子、利部志穂、小鷹拓郎、村田峰紀、中村葵、二藤建人、大木裕之、齋藤春佳、柴田祐輔、和田昌宏、カナダからは、Karilynn Ming Hoの各アーティストが参加。キュレーションは、独立キュレーターの原万希子さんArt Center Ongoingディレクターの小川希さんが担当する。

 

東京・Art Center Ongoingとリッチモンドをつなぐ「Ongoing / Pacific Crossings」とは

 「Ongoing / Pacific Crossings」の出発点となったのは、東京のArt Center OngoingとRAG、そして原万希子さんによる7年間の取り組み「Pacific Crossings(PC)」だ。 PCでは、アジアのアーティスト、キュレーター、アート組織との新たな関係を築くことを目的に、アーティストのレジデンス、トーク、ワークショップ、展覧会などを通して交流の場をつくってきた。

 キュレーターの原さんは、「今日の東京のアートシーンには、数多くの美術館があり、国際展やアートフェア、コマーシャルギャラリーでの展覧会が開催されています。また、アーティストと高級ファッションブランドとのコラボレーションなども盛んです。 その一方で、Art Center Ongoingのように、あえて主流に抗い、実験的な場として機能する独立したオルタナティブ・スペースへの需要も高まっています。こうした場は、『そもそも何がアートなのか』という根本的な問いを投げかけると同時に自由な表現、集い、国際交流の機会を求める社会的な必要性も反映しています」と語る。

 「Ongoingを初めて訪れた時に、アートを展示するだけでなく、アーティストが世代や国籍を問わず集まっている場所というのがすごく新鮮でした。そのネットワークにバンクーバーも参加することができれば、と思ったんです」と交流のきっかけも。

 最初の交流が行われたのは2019年。小川希さんがバンクーバーのアーティストたちと交流し、Art Centre Ongoingの活動をバンクーバーの観客に紹介した。その後、2022年にはバンクーバーを拠点とするアーティスト、Karilynn Ming Hoさんが日本でレジデンスを行い、映像作品『Butterfly Dreams』を発表。そして2026年3月には、日本のアーティスト、柴田祐輔さんがリッチモンドとバンクーバーを訪れ、現地でリサーチを実施した。こうした継続的な往来と対話が、今回の展覧会へとつながっている。

 こうした背景のもと、「今回の展示では、アートにおいても生活においても、『オルタナティブであること』が持つ、自由で解放された可能性を、観客の皆さんに想像してもらえればと考えています」(原さん)

 会場に展示されているのは、多様なメディアを用いて制作された、12名のアーティストによる作品。原さんとともにキュレーターを務めた小川希さんは、「2008年に東京でOngoing がオープンして以来提供してきた、作家たちやアートを見に来る人たちがつながる場所、そして、そこにいる人々の関係性を、どうしたらカナダの人に伝えられるか、と考えて構成しました」と話す。

 会場に入ると、村田峰紀さんによる印象的なインスタレーションがまず目に入る。

天井から吊り下げられるのは、カラフルなドローイングが描かれた100枚の白いワイシャツ。これらは2007年から日本国内外で50回以上行われてきた、村田さんのパフォーマンス・シリーズ『My Back Talk(背中で語る)』の中で制作されたものだ。 

村田さんが、自分が着ているシャツの背中に描いたもので、日本だけでなく、台湾で描いたシャツも含まれている。

 『My Back Talk』は、7月25日の展示オープニングでも実演された。村田さんは、「言葉をしゃべるのが苦手なため、そのコンプレックスを自分のアイデンティティとして、自分らしさとして捉えたなかで生まれた表現方法です。(言葉にしなくても、その人の生き方や姿勢が背中に表れるという意味を持つ)『背中で語る』という言葉に出会って、自分がやっていることに通じるものがあるな、と思ったこともありタイトルにしました」とそこに込めた思いを語る。

 パフォーマンスでは、赤や青、緑など何色ものマーカーを次々に取り出し背中に色をのせてゆく。「パフォーマンスで使う色には、その時々の思いをのせています。今回の場合は、カナダの自然や景色から感じた緑とか青、カナダ国旗の赤、昔はここに競馬場があったと聞いたので競走馬の番号の色などが入っています」と話す。「それから、紫はこの建物の前にあったので、それも一本足しました」と。ギャラリーの前にある小さなストリートバナーを指さし、「ここで一週間過ごして感じた色ですね」と笑顔を見せた。

 会場に飾られている100枚のシャツは、一つの大きな作品として空間を満たしているだけでなく、それぞれ異なる時間と制作の痕跡なのだ。

 賑やかな電飾で目を引くのは、柴田祐輔さんによる作品『HAPPYLAND』だ。楽し気に光るゲートを抜けると、様々なオブジェクトがひっそりと佇む空間に入る。

 柴田さんは3月に2週間ほどバンクーバーに滞在。留学やワーキングホリデーなどでバンクーバーにいる人々、さらにカナダへ移住した日本人たちにインタビューを行った。また、日系移民の歴史や、リッチモンドのスティーブストンの地域史にも目を向けてリサーチを行い、理想の移住先としてのバンクーバーと、そこに生きる人々の現実のギャップについて考察を重ねた。今回の展示では、さまざまなオブジェクトを組み合わせ、理想と現実のギャップ、そしてその狭間で生きる人々の心を浮かび上がらせるマルチメディア・インスタレーションとして完成させた。

日系人が収容されていたPNEには、HAPPYLAND という遊園地もあったのだとか。
Art Centre Ongoing/ Pacific Crossing
「日系移民の写真花嫁(ピクチャーブライド)について調べている際に出会った言葉です」(柴田さん)

 「日本では、バンクーバーは英語を学ぶ、あるいは休暇で訪れるのに魅力的な場所というイメージが定着しています。また、近年は理想の移住先としての候補にあがることも多いです。しかし、実際にそこに暮らす人々の経験は、そのイメージだけでは捉えきれないと知りました」と語る。「留学先の学校がつぶれてしまった、など来る前には想像もしていなかった困難に合う人もいる。歴史をさかのぼれば、戦時中には日系人は強制収容所に入れられ大変な経験をされた」とも。

 展示には机、床などに、柴田さんが書籍やリサーチをした中で印象に残った言葉が引用されている。「自分でもリサーチを通して新たに知ること、考えることが多くあった。見に来てくださる方にも、自分の体験と重ねてみたり、書かれている言葉について考えてみたり、新しいことに出会ってみたりしてもらえれば」と期待する。

 

 バンクーバーからは、Karilynn Ming Hoさんが参加。Ming Hoさんは、スクリーン文化、テクノロジー、身体、パフォーマティヴィティなどを、実存的な問いと結びつけて作品を制作している。

 2022年のOngoingでのレジデンスでは、日本の現代文化におけるAIと人間の関係についてリサーチを行った。その経験を背景に制作された今回の映像作品では、高齢者がオンライン上で宇宙飛行士と恋愛関係を築いていく。しかし、その関係の正体はAIなどのデジタル技術を利用した詐欺だった——という物語が描かれる。

 テクノロジーは人間の孤独や欲望をどのように映し出すのか。そして、画面の向こうにいる「相手」を私たちはどこまで信じることができるのか。 AIが急速に日常へ入り込む現在だからこそ、現実と虚構の境界をめぐる問いを切実に投げかける。

 利部志穂さんはリッチモンドの川や橋から着想を得たサイトスペシフィック・インスタレーション『Statue of Small Miracles』と映像作品『Living Water and Flow』を展示。作品は日本にいる加賀さんと、リッチモンドにいるキュレーターの原さん、小川さん、RAGディレクターのショーン・デイシーさんとのリモートでの協働によって制作された。

 齋藤春佳さんは、セラミック作品『Space』、『Hidden Dimension』などの油彩、ドローイングを通じて、過去・現在・未来、そして異なる場所で起きた出来事を一つの領域へと融合させる。

 さらに専用の上映室では、大木裕之さんの『MIWOKI/SEISEI(ミヲキ/セイセイ』など6人のアーティストによる実験的な映像作品を紹介する。

会期中は、さらにアートとつながるイベントも

会期中には、作品展示だけでなく、さまざまな関連プログラムも開催される。

8月29日:アーティストの井早智代さんを迎え、和紙へのインク転写技法「リフト・ドローイング」を使ったミックスメディア・コラージュのワークショップを開催する。16歳以上、料金:$5

9月12日:原さんによる英語(1pm~)・日本語(2pm~)のキュレーター・ツアーを実施。

9月26日:Karilynn Ming Hoさんによる「Artist Salon: Art & Motherhood」も予定されている。母親になることで、制作時間や素材、テーマ、制作方法がどのように変化するのかを出発点に、アートと子育て、生活経験、変化する役割についてアーティスト同士が語り合う。

RAGの「Indigenous Banner Series(先住民バナー・シリーズ)」も同時開催中

「記憶」と「教え」を未来へ『xʷən̓iwən ce:p kʷθəθ nəw̓eyəł』(教えを忘れないで)Manuel Axel Strainさん

 同展示と同時に始まる新しい取り組みが、RAGの「Indigenous Banner Series(先住民バナー・シリーズ)」だ。

 毎年、地域の先住民アーティストによる大規模な作品をギャラリー外壁に掲げるこのシリーズ。その第1回を飾るのは、ムスキアム、シンプク、シルクのルーツを持つアーティスト、マヌエル・アクセル・ストレインさんだ。

 鮮やかな色彩で描かれたバナーには、hən̓q̓əmin̓əm̓語で「教えを忘れないで」を意味する「xʷən̓iwən ce:p kʷθəθ nəw̓eyəł」という言葉が記されている。

 この作品は、2025年にRAGで開催されたストレインさんの個展のタイトルウォールのために制作されたもの。家族、土地、そして受け継がれてきたムスキアムの知識や教えとのつながりを力強く表現している。

 バナーは2026年7月から2027年7月まで、ギャラリーの外壁に掲げられる。

 7年間の交流から生まれた本展が投げかけるのは、アートは誰のためにあるのか。誰が何を表現できるのか。既存の枠組みから外れた場所には、どんな可能性があるのか。という問い。「Ongoing / Pacific Crossings」は、作品を見ることを通して、そんな問いを来場者にも投げかける。

 小川さんは、「いろんなタイプの作家がいて、それぞれこだわりがあり、独自の文脈で制作をしている。なので見に来る人にも響き方はそれぞれ違うと思う。いろんな方向性の面白さを用意したので、それぞれオルタナティブな楽しみ方をしてもらえれば」と期待する。  原さんも、「今回の展示は、まさに行ってみないとわからない楽しさが魅力のギャラリー、Ongoing の在り方そのままだと思います。事前情報がありわかったものを見に行く展覧会とは違い、ここではわからないものや知らない形のアートに出会う体験もあると思うので、とりあえず来て体験してほしいですね」と来場を呼びかける。

Art Centre Ongoing
オープニングでの(右から)RAGのショーン・デイシーさん、原万希子さん、小川希さん、村田峰紀さん、柴田祐輔さん、Karilynn Ming Hoさん
オープニングでの(左から)小川希さん、村田峰紀さん、柴田祐輔さん

Ongoing / Pacific Crossings キュレーター:原万希子、小川希(Art Center Ongoing)
会期:2026年7月25日~10月4日
会場:Richmond Art Gallery(リッチモンド・アート・ギャラリー)7700 Minoru Gate, Richmond, BC
開館時間:Monday–Friday from 10am–6pm、 Saturday–Sunday from 12–5pm

詳細、イベントのスケジュール等はRichmond Art Gallery公式サイトをご覧ください

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