ハイダ族の歴史と記憶を“纏う”-ヘイゼル・ウィルソンの大規模回顧展がバンクーバーで開催中

『I Use My Haida Eyes: The History Robes of Jut-ke-Nay–Hazel Wilson』ハイダ族の歴史と記憶を纏う「ヒストリー・ローブ」を展示

『I Use My Haida Eyes: The History Robes of Jut-ke-Nay–Hazel Wilson』at MOA キュレーターのɬəkʷəlqinəm–Jordan Wilsonさん(右)とDana Simeon さん(daughter of Jut-ke-Nay–Hazel Wilson). Photo:Osanpo News Canada!

 バンクーバーのブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)にあるMuseum of Anthropology (MOA)で、ハイダ族アーティストJut-ke-Nay–Hazel Wilson(ヘイゼル・ウィルソン)による大規模展覧会『I Use My Haida Eyes: The History Robes of Jut-ke-Nay–Hazel Wilson』が、5月14日から開催されている。キュレーターはMOAのɬəkʷəlqinəm–Jordan Wilsonさん。

 本展は、ヘイゼル・ウィルソンさんが2005年から2006年にかけて制作した「ヒストリー・ローブ(History Robes)」シリーズを中心に構成されたもので、全50点に及ぶ作品群を一堂に集める初の機会となる。ウィルソンさんの作品は2022年に刊行された書籍『Glory and Exile: Haida History Robes of Jut-ke-Nay Hazel Wilson』によってその存在が広く知られるようになったが、シリーズのほぼ全貌が公開されるのは今回が初めて。

ハイダの視点から描かれる「もうひとつの歴史」

 ヘイゼル・ウィルソンさんは、カナダ西海岸の先住民族であるハイダ族の文化継承に尽力したアーティスト。彼女が手がけた「ヒストリー・ローブ」は、北西海岸先住民に伝わる伝統的な「ボタン・ブランケット」をベースにしながらも、その表現を大胆に拡張したオリジナリティー溢れる作品群だ。

 本来、ボタン・ブランケットは家系やクランの紋章を示す ceremonial robe(儀礼用ローブ)として用いられてきた。しかしウィルソンさんは、その形式を用いて、ハイダ族の歴史や個人的な記憶、植民地主義の傷跡、土地との関係性などを物語としてブランケットに描き出した。

 展示では、ヨーロッパ人到来以前の祖先の物語から、探検家たちとの接触によってもたらされた疫病、さらには1940〜50年代の彼女自身の幼少期の記憶まで、多層的な歴史が絵巻物語のように紹介される。

展示されたブランケットの一枚一枚に、歴史やハイダ・グワイの人々の生活を伝える物語が込められている Photo:Osanpo News Canada!

「歴史画」と「先住民工芸」の境界を越える作品群

 一般的な工芸作品の枠に収まらないローブの数々は、色鮮やかな布やビーズ、ボタンを用いながら、まるで絵画のように物語を語り、時に歴史の暴力を告発し、時に静かな風景の記憶を残す。

 展覧会を企画したMOAキュレーター、ɬəkʷəlqinəm–Jordan Wilsonさんは、初めて作品を見た時の衝撃について、「ヘイゼルの世界へ観客を引き込む、革新的で予想外の作品でした」と語っている。「制作から20年を経た今なお、この作品群は強い共鳴力を持っています。特に、ヨーロッパ人の到来からカナダ植民地主義の歴史を描き出している点において重要だと言えます。また、このシリーズはハイダの人々とその土地との深く持続的な結びつきも描いています。このシリーズ全作品を初めて一堂に集めることで、本展は、先住民の価値観や環境保全のあり方、そして土地や資源を搾取的に利用してきた資本主義社会のアプローチについて、より大きな対話を開く機会となるでしょう」とも期待する。

 展示はテーマによりセクションが分かれており、各ローブには、作品が描く歴史的出来事について作家自身が手書きしたテキストが添えられている。『Guidance』では、若きヘイゼルが長老たちから文化継承の役割を託される場面が表現されており、個人の人生と民族の歴史が不可分であることを静かに語りかけ、『The Mistake』では、ハイダ族がヨーロッパ人探検家と初めて遭遇した瞬間が描かれ、外部から持ち込まれた疫病によって先住民社会が壊滅的打撃を受けた歴史などを伝える。また、『All the Nations Came Together (Putting Away the Magic)』では、ハイダ族および他の先住民女性たちが、自らの“魔法”を入植者から守るため安全にしまい込む様子を描き、『Tiiyaan』では、ウィルソンさんの祖先の村を静かな夜景として描写した作品が並ぶなど、ハイダ・グワイの人々が長く受け継いできた世界感を感じられる内容となっている。作品には、ハイダ・グワイの自然環境のなかで行われてきた採集や漁、共同体の営みが繰り返し登場し、単なるノスタルジーではなく、自然資源を収奪の対象として扱ってきた近代資本主義への批評的視点も含まれている。

家族とともに紡がれた制作

 今回の展示では、ヘイゼルさんの娘たちであるボタン・ブランケット作家のダナ・シメオンさんと、ビーズ作家として知られるエイヴィス・シメオンさんもアドバイザーとして参加している。今回の展示会場を訪れたダナさんは「会場に並んだたくさんの母の作品を見てとても感激しています」と感謝を述べ、「よく母と古着店を巡りながら適切なビーズや布地を一緒に探しました。使える物が見つからない時には、母から『ハイダの眼(Haida eyes)を使って探してごらん』とよく言われたものです」と懐かしそうに思い出を語った。

展示会場には、ウィルソンさん母娘のセレモニー・ローブも展示するPhoto:Osanpo News Canada!


開催期間:2026年5月14日〜10月12日
会場:Museum of Anthropology MOA(6393 NW Marine Drive, Vancouver, BC)
チケット:一般$26、学生(19歳以上) $23 、ユース(6歳~18歳)$18

***木曜5:00 pm 以降は半額

展示スケジュール、チケットの購入方法はMOA公式サイトをご覧ください。

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